活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

2020年10月 ROAD TO SILICON VALLEY

“Technology and Entrepreneurship from Japan Contributing to Our Society”
世界を変える日本のテクノロジーとアントレプレナーシップ

モデレーター: 辻 庸介 (株式会社マネーフォワード 代表取締役社長 CEO)
出雲 充 (株式会社ユーグレナ 代表取締役社長)
宮田 裕章 (慶應義塾大学 医学部 教授)

GAFAをはじめとする米国のIT大手がデジタル経済の変革をリードする中、日本企業に勝てる道は残されているのか。本イベント2日目の最終セッションでは、「日本のテクノロジーとアントレプレナーシップ(起業精神)」をテーマに、マネーフォワードCEOでシリコンバレー・ジャパン・プラットフォーム(SVJP)のエクゼクティブ・コミッティーメンバーを務める辻庸介氏による司会のもと、ユーグレナ社長の出雲充氏と慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏が、日本の進むべき道について大局的な視点から議論を交わした。

日本が抱える二つの課題

出雲氏はまず本セッションの議題に触れて、「⽇本が元気になるためにはアントレプレナーシップが重要」と主張する。経済成長に関して、「世界中の研究でアントレプレナーシップと生産性の高い相関性が明らかになっている。ところがアントレプレナーシップに関する国際的な競争力ランキングで日本は最下位だ」と指摘。どうすればこの現状を変えられるか、出雲氏は常に考えているという。

アントレプレナーシップに加えて、もう一つ日本の大きな課題がデジタル化だ。経済協力開発機構(OECD)の国際調査によると、学校の授業でデジタル機器を利用する割合で、日本は加盟国37カ国中で最下位。宮田氏は「教育現場はデジタルを邪魔なものとして遠ざけてきた」と指摘。デジタル化は識字率と同じく、社会のベースになるものだとして、「早急に取り組まないと手遅れになる」と警鐘を鳴らした。

デジタルとフィジカルの両立

宮田氏はLINEを使った厚生労働省の新型コロナ全国調査を発案したことでも知られる。「コロナウイルスは伝統的な水際対策ではもはや手に負えない。まずはしっかりデータを集めて、何が起きているかを把握することで、次のビジョンが見えてくる」と、同氏は調査の狙いを口にする。そしてヘルスケア分野でのデータの活用について、「国やIT大手だけがデータを使えるのではなく、起業家が同じステージで勝負するためにはデータを開放することが必要だ」と述べた。一方、出雲氏は、ヘルスケア分野はデジタルとフィジカルの両方のテクノロジーが求められるため「1社単体ではできない」と指摘し、シナジーを生み出すM&Aが有効だとの見方を示した。

政府のデジタル庁設置に向けた動きなど、日本でもデジタル化の推進は喫緊の課題となっている。もっとも、現状の公的機関で行われているデジタル化について、宮田氏は「単に紙でやっていた作業を電子化するだけの『デジタル化の罠』にはまっている」と問題視する。実際に求められているデジタル化とは、デジタルという選択肢をもつことで現状のあり方を改めて再設計し、より豊かな人間社会を追求することだという。

グローバル市場での勝算

出雲⽒率いるユーグレナは、今年ノーベル平和賞を受賞したことで注⽬を集めている国連世界⾷糧計画(WFP)と事業連携し、ロヒンギャ難⺠の⾷料⽀援を⾏っている。これに関して、出雲⽒は「栄養素の固まりのミドリムシ、故障しないトヨタ⾞、ガンを治せる薬。こうしたものは、言葉の壁を越えて、世界中の人にその価値を訴求できる」として、「グローバルに勝負するなら、英語力が大きなハンデにならない、説明不要な圧倒的強さと根源的価値を示せる分野を選ぶべきだ」との持論を述べた。

シリコンバレーのIT大手がヘルステック市場に次々に参入する中、辻氏は「このままだと日本のヘルスケア分野もGAFAに支配されてしまいかねない」と危機感を表す。宮田氏は、日本ではプラットフォームの整備やデータの取り扱いなどについて政府内でようやく議論が始まったばかりだとして、「国だけでは限界があるので、民間企業を巻き込みながら価値あるものを作っていくべきだ」と語った。

これに対して出雲氏は、「日本に勝算は十分ある」と語り、日本が今後注力していくべき分野を二つ挙げた。一つは所得に関係なく誰にとっても大切な「健康」、そしてもう一つはコンピュータを動かす動力としての「電池」だ。出雲氏は「もし日本に、どんな病気でも治せる高い医療技術や、一回充電すれば一年間もつような電池があれば、世界中の人は必ずこれに対価を払うはずだ」と話した。

新しい「豊かさ」を作る

最後に、起業家を⽬指す⼈に対して、出雲⽒は「⽇本にはまだ勝てるチャンスが⼗分ある。ミドリムシのようなビジネスでもWFP と連携し、世界の⼦供たちに栄養のある⾷料を届けるという刺激的な取り組みを実現できた。僕にできて、みなさんにできないはずがない。日本を楽しく盛り上げていける起業家を一人でも多く応援していきたい」と語った。一方、宮田氏は社会の豊かさの指標として、国内総生産(GDP)やウェルビーイング(幸福)といった概念は時代遅れになりつつあると指摘。「自分だけでなく、社会全体をどうやって豊かにしていくか。これからは、世界とのつながりの中での多様な『豊かさ』をどのようにして生み出せるかがポイントになる。それが新しい価値になり、世界を変えるビジネスにもなる」と締めくくった。

今後日本が世界に存在感を示していく上で、日本の起業家がこうした「新しい問いを立てる力」をいかに育めるかが鍵となる。

レポートはPDFでダウンロードいただけます。

PDFをダウンロードする