活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

2020年10月 ROAD TO SILICON VALLEY

“Keynote Session”
キーノートセッション

モデレーター: 鎌田 富久 (TomyK Ltd.株式会社 代表 / ACCESS 共同創業者)
鍵本 忠尚 (株式会社ヘリオス 代表執行役社長CEO)
芳川 裕誠 (Treasure Data 創業者) ※Zoomにて参加

起業家として成功するための条件とは何か。また会社を大きくする過程でどのような問題に直面するのか。本セッションでは、ACCESSの創業者として知られる鎌田富久氏がモデレーターを務め、ヘリオスCEOの鍵本忠尚氏とトレジャーデータ共同創業者の芳川裕誠氏が、起業の苦労や成功への道のりなどをシェアした。

起業に至る経緯

鍵本氏や芳川氏のような成功した起業家は、日本ではまだごくわずかだ。鎌田氏は「起業になかなか踏み切れない人も多い」として、二人に起業家を志したきっかけを尋ねた。

医者一家の元で育ち、自身も医学の道へと進んだ鍵本氏は、研修医だった頃に重い病人を担当した体験を語った。失明して孫の顔が見えない高齢者、ガンにかかった学生、退院後に自殺してしまった患者……。そんな患者たちを前にして「『治す方法はありません』と言い続けてよいのかと悩んだ。もはや臨床医をしていられない気持ちになった」と、自身が起業に至った想いを打ち明けた。

一方、芳川氏は米レッドハットや三井物産という大企業に勤務するサラリーマンだった。商社時代に投資担当として米シリコンバレーに赴任したことがきっかけで、何人もの成功者を身近に見る機会に恵まれた。そこで出会った人々について、「確かに賢くて人間的にも素晴らしい人たちだけど、彼らだって同じ人間であり、悩んだり失敗したりもする。彼らにできて、自分にできないはずがない」。そんな想いが募って、起業家を志すようになったという。

資金調達の考え方

起業家が必ず直面する問題が資金調達だ。研修医を辞めて起業した鍵本氏は、すぐに結果を出せずに、投資家に大損をさせてしまった手痛い経験がある。「バイオは技術的に複雑なので、何か問題が生じたときに業界外の投資家にご理解いただくのが難しかった」と同氏。そのため、2社目となるヘリオスでは、事業会社を中心にシリーズAで30億円を調達した。「事業会社の場合は成果を出すまでの時間的制約が少ないほか、事業面のシナジーを主に期待されているため、事業内容をしっかり見ていただけた」と述べる。

一方、芳川氏は「大きな声では言いたくないが」と前置きしつつ、「お金に『名前』が書かれてあるのがVC投資。『あの投資家がお金を入れている会社なら大丈夫だろう』というふうに安心感が広まれば、資金を集めやすくなる」と話した。

日本では黒字化したベンチャーの方が機関投資家からの評価が高いのが現実だ。この点に関して、「バイオベンチャーの意義は患者に薬を届けることにある。赤字を恐れていては日本にバイオベンチャーは育たない」と鍵本氏は言い切る。そして同社が創業から赤字続きでありながらも、350億円程度の資金調達ができたことに触れ、「これは米ナスダック市場に上場するバイオ企業が製品を出すまでに調達する額とほぼ同じ規模。だから日本でもやればできなくはない」という見方を示した。

人材集めのコツ

鍵本氏は「起業して一番嬉しかったこと」について聞かれると、「患者に薬を届けられたこと。今も欧米の病院で毎日、私たちの薬が患者さんに投与されている」と答えた。

芳川氏は「日本の優秀なエンジニアを世界に出す」ことをライフワークとしてきた。英アームがトレジャーデータを買収した際には、日本で働くエンジニア50人以上が1億円以上の報酬を手にしたと明らかにし、「金銭的な成功はキャリアの成功につながる。成功の喜びを仲間たちとシェアできたことが嬉しかった」と口にした。

会社を大きくする過程で重要なのが人材集めだ。芳川氏は、住んでいる国にこだわらず優秀な人間を採用し、「『この人だ』と思ったら、目が飛び出るくらいのストックオプションを渡してきた」と語る。

もっとも、ベンチャーでは人材のクビを切らなくてはならないこともある。芳川氏は自身が採用した人材を解雇した苦い経験がある。その際に、同氏が相談役の投資家に悩みを打ち明けると、「会社を潰すのは間違った決断ではなく、遅い決断だ」というアドバイスが返ってきたという。芳川氏は「決定が正しいかどうかはわからなくても、直感を信じて動くべきだ」と述べる。

一方、鍵本氏は「バイオベンチャーは人材を比較的集めやすい」と語る。製薬業界では昨今、早期退職が相次いでおり、優秀な人材が市場にあふれているためだ。また創業間もないスタートアップの場合、「大切なのは最初の一人の採用で、その人物が業界内で名前が知られていれば、ほかの人もついてくる」と採用のコツを明かした。

次世代起業家へのメッセージ

これから起業家を目指す若者はどんなことを意識すべきか。そんな問いに芳川氏は「人生はいくらでもやり直せる。自分の直感を大事にして、やりたいと思ったらまずはやること」と答える。同じ質問に対し、鍵本氏は、起業家にとって重要なのは「何のために起業するのか」という初心の深さを表す縦軸と、興味や関心の広さを表す横軸だと説明。「縦軸の初心が深い人はブレない。そして横軸で感性がおもむくままに何でもチャレンジしてほしい。それが将来になって花開く」と、参加者を勇気づけるメッセージを送った。