活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

2020年10月 ROAD TO SILICON VALLEY

“How to Build a Billion-Dollar Company”
「10億ドル企業」を作る方法

Kat Mañalac (YC Partner)

本イベント2日目の午前中に行われた最初のセッションは、「10億ドル企業を作る方法(How to Build a Billion Dollar Company)」と題して、YCパートナーのキャット・マニャラック氏が、成功するスタートアップの秘訣について約30分のレクチャーを行った。マニャラック氏は最初にYCの特徴を手短に説明し、その後、10億ドル企業を作るのに欠かせない3つのポイントを挙げた。

最も成功しているアクセラレーター

YCは2005年の創設以来、2500社以上のスタートアップを輩出してきた。YC出身企業のリストを見ると、AirbnbやDropbox、Stripe、Instacart、Docker、Quoraなど、錚々たる企業名が並ぶ。出身企業の時価総額(企業価値)を合計すると2000億ドルを超えるという。

日本からはこれまでFond(福利厚生)とAlpaca(フィンテック)の2社がYCを卒業しており、Alpacaはつい最近シリーズAの調達を完了したばかりだ。

一般にVCから出資を受けたスタートアップであっても75%が倒産すると言われているが、YCの場合は出身企業の70%が今も事業を継続していることから、YCの圧倒的なスタートアップ育成力がうかがえる。

ではYC出身の成功企業に見られる3つの共通点とは何か。

1.アイデアが明確である

最初にマニャラック氏が指摘したのは、事業内容をなるべく簡潔かつ明確に説明する能力だ。

YC卒業時のDemo Dayで起業家に与えられる発表時間はわずか2分間。当日は200社以上がプレゼンを行うため、投資家にアピールするには、シンプルでわかりやすいメッセージが重要となる。

「アイデアが明確だと自然に口コミで広がっていくため、マーケティングなどに余計なコストがかかりません。UberやTikTokなども、最初は口コミでユーザーが増えていきました」と、マニャラック氏は語る。

具体的なコツとして、AirbnbやBoom(超音速旅客機)が実際のプレゼンで用いたキャッチフレーズを紹介しつつ、「何をする会社かを最初に一文で述べる」「流行りの言葉(ノウハウ、シナジーなど)は使わない」「冗長な説明は避ける」などのポイントを紹介した。

2.数字にフォーカスしている

参加スタートアップは3カ月のプログラム期間中、「プロダクト開発」と「ユーザー開拓」の二点のみに集中し、採用や講演など他の活動は一切禁止される。

そこでゴールとなるのが「数字」だ。各スタートアップは一つの数値達成を目標に3カ月間全力を傾けると、マニャラック氏は言う。

「YCパートナーと相談しながら、毎週10%成長が可能な数字をはじめに取り決めます。ソフトウェア企業の場合は売上やユーザー数などが一般的ですが、ハードテック系やバイオテック系の企業の場合は、必ずしもそうはいかないので、LOI(基本合意書)など別のゴールを設定することが多いです。たとえば、BoomはDemo Dayの前に、宇宙旅行企業ヴァージン・ギャラクティックなどから50億ドルのLOIを獲得することに成功しました」

3.大きなビジョンがある

フォーカスする数字を設定したら、次に起業家が考えるべきは、「その数字をどこまで最大化できるか」だ。マニャラック氏は次のように話す。

「どうすれば自分たちのプロダクトやサービスをスケール)できるか。一つは、起業家が自分自身を信じることです。YCではどんなアイデアがヒットするかを予測するようなことはしません。私たちが予測するのは、起業家やチームがどれだけの強い意志をもって10億ドル企業の創出に取り組めるかです」

YCへ応募する起業家はもともと大きなビジョンをもっていると思われるが、YCではそのビジョンをさらに「極限」にまでもっていくよう指導を行っている。たとえばプログラム期間中には、「もし全世界の人が自社のテクノロジーを手にしたら何ができるか」といったシナリオを起業家たちに考えさせるのだという。

圧倒的なYCのネットワー

上記1~3の点を踏まえ、マニャラック氏はYCがこれまで多くの優れたスタートアップを輩出できた理由として、卒業生のもつ強いネットワークを挙げた。

「YCが他のアクセラレーターと大きく異なる点は、全世界に5000人以上の起業家のネットワークをもっていることです。創設者のポール・グレアムやジェシカ・リビングストンらは、2005年にRedditやLooptなど第1期のスタートアップを輩出して以来、とくにネットワーク作りに力を入れてきました。YCには卒業生同士が気軽に意見交換できるSNS『Bookface』をはじめ、このつながりを促進するためのさまざまなメカニズムがあります」

残念ながら、そのネットワークに日本人起業家はまだ少ない。YCに参加する日本の起業家が増えることは、日本のスタートアップ業界にとっても、そしてまたYCにとってもプラスとなる。マニャラック氏は最後に今後のプログラム開催予定に触れ、「少しでもYCに興味がある人はぜひ応募してほしい」と日本の参加者らに呼びかけた。