活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

2019年8月SVJPアントレプレナー・プログラム・シリーズ:シリコンバレーへの挑戦 ~世界で戦い、勝つために~

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第3部:講演&ワーク:Y Combinatorへの挑戦

馬田隆明氏(東京大学本郷テックガレージ ディレクター)
石井大輔氏(株式会社ジェニオ 代表取締役)

東大発スタートアップの支援プログラム「Found X」を率いる馬田隆明氏と、複数のスタートアップ支援プログラムへ参加経験がある起業家の石井大輔氏が登壇。馬田氏がYCのプログラムの内容や魅力を詳しく紹介し、石井氏がYCの最終面接で苦汁をなめた自身の体験を交え、応募や面接の際に気を付けるべきコツを伝授した。

「YCに入るのはハーバード大学に合格するよりも難しいんです」と、スライドを見せながら、馬田氏は分析した。

2018年夏開催のバッチ(プログラム)には、全世界から1万社近い応募があったという。そのうち500社がシリコンバレーで最終面接を受け、140社が実際に合格・参加した。合格率が5%程度とされるハーバードよりも狭き門というわけだ。

YCはこれまでDropboxやAirbnb、Stripe、Coinbaseなどの有力テクノロジー企業を多数世に送り出してきた。卒業した企業の時価総額は合計15兆円に上る(2019年3月時点)。

だがそのYCで、米国以外の国と比べても日本の存在感は非常に薄いのが実態だ。これまでYCに参加した日本のスタートアップは2社しかない。

馬田氏は、YCに参加するスタートアップの30%ほどが海外の企業で、また60%ほどがプロダクトを作る前のフェーズにあると説明。さらに約40%の企業は合格までに複数回応募しているとして、日本のスタートアップによる積極的な応募を促した。

YCに参加するメリットとしては、毎週あるいは隔週で行われるパートナーとの面談や、他のスタートアップと合同のグループオフィスアワー、さらに卒業生や投資家とつながれる会員制SNS「Bookface」などを挙げた。

日本からの参加企業を増やすべく、馬田氏はYCより許可を得た上で、「Found X」のサイト上でYC関連のニュースを翻訳して発信している。

そんな馬田氏が起業家にお勧めするのは、YCが運営している10週間の無料オンラインプログラム「スタートアップ・スクール」だ。このプログラムに参加したことがきっかけとなり、シリコンバレーで開催される本番のバッチへの参加を勝ち取るスタートアップも少なくないのだという。

そのスタートアップ・スクールを2018年に卒業し、YCのバッチ参加の一歩手前までいったのが、次に登壇した石井氏だ。

石井氏が率いるジェニオは、Slack向けの同時AI翻訳付きビジネスチャットツール「Kiara」を開発している。昨年、ブラジル出身でAI専門家の石田レオナルド氏とタッグを組んで挑んだYCのバッチ選考は、残念ながら最終面接で不合格となったが、その貴重な体験を今回、参加者とシェアした。

石井氏は1次審査に提出したという1分間のビデオを画面に映し出した。

「Hi, I am Daisuke, and he is Leonardo. We are co-founders of Kiara!」

共同創業者の2人がカメラに向かって英語で語りかける。おしゃれな動画編集はいっさい施されていない。「ポイントはシンプルに作ること。『ビデオコンテストみたいな凝った作品は落とされる』と言われています」と石井氏。

続いて2次審査のオンライン面接(10分間)の雰囲気やその場で受けた質問内容を紹介。面接のあと、相手のメールアドレスを調べて、すぐにお礼のメールを送ると、まもなくして通過を知らせる返事があったという。

そしていよいよ3次審査。シリコンバレーのマウンテンビューでパートナー2人による10分間の最終面接に臨んだ。

当日の写真をスライドに映しながら、緊迫した雰囲気や準備の様子について石井氏はリアルに語った。事前に面接官の名前が壁に張り出されていたため、リンクトインなどで経歴を調べ、直前まで対策を練ったという。

「過去の参加者の体験談などをブログで読むと、5年くらい前までは圧迫面接だと言われていましたが、パートナーの世代交代などがあり、最近はかなりマイルドになった。厳しさはあるのですが、僕自身は圧迫だというふうには感じませんでした」

石井氏は最終面接で残念ながら不合格となった要因について、次のように冷静に分析する。

「まず、僕らはプロダクトをローンチする直前だったのでKPI(重要業績評価指標)がなかった。またそれと関連して、ライバル企業との競争戦略についても、今一つ説得力のある話ができなかった。あと英語が得意なレオナルドが中心になって受け答えしたのですが、やはり英語が下手でも、社長の自分が、『絶対に成功するんだ』という意気込みを示さないといけなかったのかなと反省しています」

最終選考後、石井氏のもとにはYCより一通のメールが届いた。そこには、合格に至らなかった理由が簡潔に述べられ、さらに「我々もしばしば投資判断を間違えることがあります。今回は不合格でも、決してあきらめないで、またチャレンジしてください」とのメッセージが書かれていた。

YCは何度でもチャレンジできる環境であるし、「絶対に合格する」という気持ちで次回もぜひトライしたい、と石井氏は語った。

最後に、会場の参加者が実際にYCの応募書類にある質問に答え、隣の席の人からフィードバックをもらう、というミニワークが行われた。

「YCの応募書類はすごくよくできていて、質問に答えるプロセスを通して、起業家が自分たちの事業のさまざまな側面について考えられるようになっている」と馬田氏。

参加者同士が活発に意見交換し、名刺交換する場面が見られた。YCへ挑戦する日本のスタートアップがこれから増えていくということを確信させるイベントとなった。

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