活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

2019年8月SVJPアントレプレナー・プログラム・シリーズ:シリコンバレーへの挑戦 ~世界で戦い、勝つために~

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第2部:パネルディスカッション:海外への挑戦

杉江理氏(WHILL株式会社 代表取締役兼CEO)
杉田泰樹氏(オリック東京法律事務所 パートナー)

続いて、世界を舞台に活躍するハードウェア起業家の杉江理氏と、弁護士の杉田泰樹氏の2人によるステージにのぼった。SVJP事務局のアントレプレナー・プログラム責任者、土居隆之がモデレーターを務めた。開始20分ほどで質疑応答に移り、会場の参加者から多くの質問が2人に寄せられた。

「会社がつぶれなかったこと。それ以上に良かったことはないんじゃないですかね」

シリコンバレーに行って良かった点を問われた杉江氏は、端的にそう答えた。

2012年に次世代型電動車椅子メーカーの「WHILL(ウィル)」を東京で創業。だが当てにしていた補助金を獲得できず、苦境に立たされていた。どのみちこのままでは会社が終わってしまう。アメリカで資金調達ができないか、と考えた。

「いわば最後の一撃というやつです」と杉江氏は笑う。

そんな捨て身の覚悟で挑んだアメリカ市場で、有力起業家養成キャンプの「500 Startups」への参加を勝ち取る。

「500 Startupsで役立ったのは、500 Startupsのネットワークを使ってシードラウンド / エンジェルインベスターを捕まえられたこと。あとはそのためのピッチの練習でした。3分間で言いたいことを言う練習をみっちりさせられました」

杉江氏は当初、パートナーの一人にピッチを見てもらうと、「帰れ!」と罵倒されたと打ち明ける。

「『おまえの英語はまじでダメだ、ちゃんと練習しているのか? おまえがピッチを失敗すると会社がつぶれるぞ』と叱られました。ピッチの技術的な面はもちろん、そういうメンタル面も鍛えられたのが良かったと思っています」

2013年に500 Startupsのプログラムに参加したことがきっかけで、エンジェル投資家より出資を獲得。現在にいたるまで約7年間、北米を中心に事業を拡大してきた。

あらためてシリコンバレーに行って良かった点を杉江氏は冷静に3つ挙げた。

「初期の段階で良かったのは、プロトタイプを早く作れたこと。シリコンバレーはアーリーアダプターが多くまわりのユーザーがとても協力的で、みんな喜んでテスター(モニター)になってくれるんです」

一方、長期では「グローバルな目線が得られた」ことを挙げる。

「考え方だけでなく、日常的に使うツールについても言えます。在庫管理や会計、労務管理など、最初に日本だけで使えるシステムを入れてしまうと、のちのち海外に進出しようと思っても、それが足かせになってうまく広げられなかったりします」

またメンタル面でのメリットについても、ユーモアたっぷりに語った。

「僕らはアメリカに行くと『ゴミ』みたいな存在。日本ではメディアに取り上げられたりして自分が何者かになったのかと勘違いしそうになりますが、シリコンバレーでは山ほどいる起業家の一人にすぎない。ありがたいことに天狗になれない。そこがいい点ですね。世界から見たらまだまだ、まだまだ『ゴミ』です」

そんな杉江氏をはじめ、海外に挑戦する多くの起業家をリーガル面でサポートしてきた杉田氏は、一歩引いた視点で、日米のVC(ベンチャーキャピタル)の違いについて、次のようにコメントした。

「スピードがまったく違います。米国のVCは、決定から実際に動くまでのスピードがとにかく速い。『出資することにしたから明日契約書をもってきてくれ』といった連絡が、前日の遅い時間帯に届くこともありますね(苦笑)」

スピード重視という話が出ると、会場の参加者から、「テクノロジーのデューデリジェンス(投資など重要な決定を下す前に行う詳細な調査)はきちんと行われているのか?」という質問が上がった。

米国では医療系スタートアップのTheranos(セラノス)が引き起こした事件が記憶に新しい。画期的な血液検査技術をうたい、巨額の投資を集めた後、技術的な疑惑が発覚し、2018年に解散に追い込まれた。

杉田氏はその事件を念頭に、「米国ではテクノロジーも重要だが人を見て判断する傾向が強い。『このVCが投資しているなら大丈夫』という考え方です。あまり良くない点かもしれないが、『リード投資家がきちんとデューデリジェンスをやっているはずだ』という前提がある」と答えた。

また日本と比べて、米国では弁護士秘匿特権(Attorney Client Privilege)の観点からリード投資家があまり他の投資家に情報を開示しない傾向にあるとも指摘。そのため、他の投資家は情報が限られた中で、リード投資家を信用せざるをえないという状況もあるという。

続いて別の参加者より、杉江氏に「言葉のハンデがありながら、どうやって今まで海外で事業を続けられたのか」という質問が投げかけられた。

杉江氏は「なんでできたのかは自分でもわからない」としつつ、タイミングを要因の一つに挙げた。

「ハードウェア系スタートアップにとって、一つ言えるのは時代が追い風だったんです。2013年頃、メーカーズ・ムーブメント(デジタル製造のトレンド。クリス・アンダーソンが提唱)があり、2015年頃にはIoTブームが続いた。その後ロボットそしてMaaSのトレンドが今来ている。もし起業したのが5年早ければ、僕らは失敗していたかもしれません」

そんな杉江氏のような起業家を支えてきた杉田氏は、「成功する起業家のタイプ」について聞かれ、次のように答えた。

「本当にいろんなタイプの起業家がいますから、一概には言えません。ただ一つ言えるとすれば、最終的に成功するかどうかは、創業者のコミットメントにかかっている。日本でもシリコンバレーでも、『成功するまであきらめない』という強い信念をもって頑張っている起業家が、今も事業を継続できているように思います」

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