活動概要

  1. コーポレート・プログラム
  2. TOKYO セッション

2020年2月 SVJP Tokyo Session with 久能祐子(Halcyon)

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パネルディスカッション「日本企業とジェンダー・ダイバーシティ」

久能祐子氏(Halcyon 共同創設者 兼 代表理事)
佐々木ジャネル氏(EY Japan ディレクター)
モデレーター:鈴木和洋氏(シスコシステムズ 代表執行役員会長)

続く第2部のパネルディスカッションでは、久能氏、佐々木ジャネル氏、鈴木和洋氏の3名が登壇し、「日本企業とジェンダー・ダイバーシティ」をテーマに、突っ込んだ議論を展開した。

鈴木氏が代表を務めるシスコシステムズは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進を重要な経営戦略の一つと位置付け、日本における「働きがいがある会社」ランキングで1位に輝いたこともある(2018年度版、大規模部門)。佐々木氏はシスコシステムズ在籍時代に鈴木氏のもとで働いた経験があり、EY JapanではD&I戦略の旗振り役を務めている。

モデレーターを務めた鈴木氏は、冒頭で「一般にアメリカ企業はこれまでジェンダーのダイバーシティに関してあまり優等生ではなかった」と指摘し、最近の状況について久能氏および佐々木氏に質問した。

久能氏は「5年前までは暗い状況だった」と前置きしたうえで、「この1年ほどで、女性ならではの共感性を活かしたさまざまな取り組みが始まっており、状況は大きく変わりつつある」と評価した。

佐々木氏もその発言に頷き、「2018年は多くの進展がありました。政界で多くの女性議員が誕生し、『MeToo運動』も注目を集めました。公的企業に女性の取締役を迎えることを義務付けるカリフォルニア州法が制定され、S&P500社における女性取締役の数も過去最高になりました。まさに『女性の年』だったと言えます」とコメント。一方で「女性リーダーへのパイプライン(供給経路)については、まだまだ改善の余地があります」と問題提起した。

女性社員が会社を辞めていく理由

アメリカの状況を理解したところで、次に鈴木氏は日本企業におけるジェンダー・ダイバーシティの課題や取り組みについて二人に意見を求めた。

佐々木氏は、米シンクタンク「人材イノベーションセンター(Center for Talent Innovation)」が2011年に発表した報告書「日本のオフランプとオンランプ(Off-Ramps and On-Ramps Japan)」の内容に触れ、興味深いデータを紹介した。

同報告書によると、国別インタビュー調査の結果、「自身のキャリアパスに希望がもてない」ことを退職理由に挙げた日本の女性社員の割合は回答者の63%にのぼり、アメリカの26%に比べてはるかに高いという。

この結果を受けて、佐々木氏は「日本の女性たちが会社を辞めるのは、必ずしも出産や育児のためだけではありません。女性たちの多くは、会社での未来が見えず、行き詰まっていると感じている」と指摘し、次の3つの解決策を提案した。

  1. スポンサーやメンターなど、女性社員に対して目に見える形でのキャリアサポートを提供する
  2. フレキシブルな労働環境を実現するための企業方針を策定する
  3. インクルーシブ(包含的)なリーダーシップを導入する

「こうした取り組みがきちんと果たされれば、状況は必ず前進します」という佐々木氏の力強いメッセージに、頷く参加者の姿が多く見られた。

佐々木氏の提言を受け、久能氏は「女性が活躍できる場所を作ると同時に、女性が活躍できる場所を自ら探すことも大事」という見方を示し、こう述べた。

「会社と自分自身が求めるものが違う場合は、『別れる』という選択肢もあっていいはずです。アメリカでは一つの会社にずっと勤め続けるという考え方は基本的にありません。企業側も働く側も、お互いにうまくいっていないと感じたら、『グッドラック』と言って、次の道を選ぶ。日本では難しいかもしれませんが、他の会社や部署であれば、今の自分の力がもっと活かせるかもしれないという可能性も大切にすべきです」

「与える」のではなく「選ばせる」

パネルディスカッションの終盤で、鈴木氏は「日本の大企業の中には、ジェンダー・ダイバーシティに注力していると言いながら、D&Iの責任者を任命して終わり、というケースも少なくない」と指摘。そうした現状を変えるには何が必要かと、改めて二人に問いかけた。

久能氏は「非常にシンプルですが、女性に『与える』のではなく、『選ばせる』という感覚が大切」と発言。「(D&Iプログラムやキャリアパスに関して)男性側から一方的に命令や提案をするのではなく、女性が自ら考えて、実行し、その結果を受け取れるようにするべきです」と呼びかけた。

佐々木氏も、「女性のモチベーションやチャレンジにしっかりと耳を傾けることが重要」として、次のように訴えた。

「女性のキャリアパスを柔軟にカスタマイズできるようにしてください。新しいチャレンジをしたい女性社員が、会社を辞めずに『社内起業家』になるという方法もあるはずです。だからとくに現場レベルのマネジャーは、女性社員に社内で革新的なアイディアやプロジェクトに取り組める充分な時間を与えるべきです。それによって、彼女たちの野心や創造性、情熱を解き放つことができるのです」

久能氏と佐々木氏の言葉を受け、鈴木氏は男性リーダーとしての立場から「ダイバーシティというと、さまざまなプログラムを企画し、一方的にトップダウンで実行するイメージがあるが、日頃から女性社員の声に耳を傾け、率直に対話し、信頼を深めていくことが大切だ」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

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