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​​2021年10月Benkyokai:コロナ禍で開催された東京オリンピックを日本人はどう捉えたのか

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コロナ禍で首相より知事を信頼

パンデミックの対策においては、政府や地方自治体、医者、メディアなどが重要な役割を担っているが、日本人はこれらの貢献についてどのように評価しているのだろうか?

マッケルウェイン教授が2020年5月と2021年3月に行ったアンケート調査によると、両方の時期において、多くの人が医者の貢献が最も高かったと評価した。政治関連では、興味深いことに首相よりも各都道府県の知事の評価の方が高かった。調査の時期を変えてもその傾向に変化は見られなかった

もちろん首相と知事の評価の差の大きさは都道府県によって異なる。とはいえ、奈良県と石川県を除いた全ての都道府県で知事の評価の方が高いことがわかった(2021年3月の調査結果)。次に、自民党支持者および自民党非支持者の間での比較を行ったところやはり自民党非支持者は、多くの都道府県で知事の評価の方が高く、自民党支持者の場合は、首相の評価の方が高い都道府県の数がやや多かったが、多くの場合、知事の評価の方が高いことがわかった。

マッケルウェイン教授はこれらの調査結果を受けて、「新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちに知事や地方自治体のトップとしてのの責任にだけでなく、性格や公共の場でのコミュニケーションスキルなどについて考えさせられたと思います」と語った。

「恐らく、パンデミックが発生するまで、多くの人たちは自分たちが住んでいる知事のことについてそれほど関心がなかったと思います。コロナ禍においては、知事がコロナ対策に取り組んでいることを人々が肌で感じており、知事が以前よりもポジティブに見られています。」

今後の予定として、マッケルウェイン教授は今年の10月に開催される衆議院選挙における投票行動やオリンピックに関わる調査、札幌市が招致を行っている2030冬季オリンピック・パラリンピックに関わる調査を行う。これにより、長期的な視野での日本とオリンピックの関係性を探っていく考えだ。

質疑応答

次に、マッケルウェイン教授が示した興味深いデータに関して、質疑応答や議論を行った。その一部を以下に紹介する。

–日本がオリンピックを通して送りたかったメッセージとは結局何だったのか?

当初のメッセージは2011年の東日本大震災からの復興でしたが、それが2013年から2021年の間にいつの間にか消えてしまいました。その主な理由として新型コロナウイルスのパンデミックが挙げられます。メッセージはパンデミックの克服へと変わりました。しかし、無観客での開催となったことや自民党の政治家が世論に配慮してオリンピックに関わるツイートを控えるようになったこと、緊急事態宣言下での外出の自粛によりメディアはオリンピックで盛り上がっている人々の様子をレポートするのが難しかったことなどから、それらのメッセージはほとんど存在しなくなっていました。

–実際にはオリンピックは安全に行われたが、多くの日本人は、オリンピックは安全に開催されなかったと回答したが、なぜなのか?

調査が行われたのはオリンピックが終了した8月8日であり、その時にはコロナ感染者数はまだ増加していました。そのような時にオリンピックは安全に開催されたと回答しづらかったのかもしれません。オリンピックが始まると、コロナ関連の話題に代わってオリンピック関連の話題が主に報道されるようになったことで外出しても大丈夫という雰囲気になり、かつメディアによって醸成された不安感が減退したため、人々は外に出てオリンピック関連あるいはオリンピックとは関係のないイベントなどを楽しむようになりました。オリンピック終了後、再びコロナ関連の報道が増えると、人々は急に外へ出るのを控えるようになりました。これは、日本人のリスク回避とニュースに対する敏感さが反映されているものと考えられます。

–世論調査の結果は、菅首相や知事とメディアのやり取りの影響をかなり受けたのではないだろうか?そうであれば、菅首相はメディアとのやり取りでどのような間違いをしてしまったのか?

まず、多くの人を呼び込みたいと思っていた当初の菅内閣の予想に反して、感染拡大を考慮に入れた妥協せざるを得ない形での開催になってしまったと世間に思わせてしまったところはあると思います。パンデミックのような国家あるいは国際的危機においては、コミュニケーションスキルは重要です。人々に自由を制限してもらうならばなおさらです。しかし、菅首相はやや硬い話し方をするので伝わりにくかったのかもしれません。

次のポイントは、政治家の評価は相対的であるということです。つまり、カリスマ的な知事がおり、彼らは公に直接語りかけていました。また、今回の調査において、私たちは回答者に、管理上のリーダーシップ、新規の事象への柔軟な適応、将来に向けてのビジョンを持った行動、レストランやサービス業界への経済的支援、感染拡大の管理を含めた菅首相のパンデミック対応の項目別評価もお願いしました。しかし全ての項目において、基本的には菅首相の対応はあまり良くないと評価されていませんでした。

しかし、一方で、彼は首相として能力が高い人であるので、タイミングが良ければ偉大な首相になっていたかもしれません。

–年齢層によってオリンピックの考え方は異なるのか?私と私の子供らではメディアに対する接し方が異なるので気になった。例えば、私はオリンピックを見て育ったが、私の子供たちは全くテレビを観ない。

マッケルウェイン教授:オリンピック開催あるいは延期の有無については、年齢層でそれほど大きな違いは見られませんでした。ただ、比較的多くの高齢者の方はオリンピック中止に賛成だった思いますが、新型コロナウイルス関連の健康上の懸念が理由だったのかもしれません。また、テレビの視聴者についてはデータをまだ注意深くみていませんが、オリンピック関連のテレビ番組の視聴率はオリンピック非関連の視聴率より必ずしも高くなかったようです。ただし、NHKは例外で2倍の視聴率をとっていました。低視聴率の理由としては、YouTubeを含めたインターネットなどのテレビ以外のプラットフォームを介しても視聴できる点が考えられます。そしてそのような媒体では自分が見たい選手のプレーを見ることができます。ゆえに人々が異なるプラットフォームで視聴している可能性はあると思います。

筒井教授:視聴率は2016年のリオのオリンピックに比べて40%ほど下がりました。他にもいろいろあると思いますが、タイムゾーンの違いはかなり大きいと思います。今の子供たちや若者は、YouTubeやサブスクリプションでイベントを分割して見ることに慣れています。彼らの多くをテレビの前に連れてきて、座らせておくのは昔よりかなり難しくなっているでしょう。数字が下がった理由のもうひとつは東京のコロナ禍という状況のせいかもしれません。特に、観客がいないという状況では、盛り上がりにくいのも事実でしょう。でも、たしかに、コンテンツ消費の仕方が変わったという時代状況も影響しているでしょう。

共同議長ダニエル・オキモトより 

本勉強会はSVJP共同議長のダニエル・ オキモトのコメントで締め括った。

日本は太平洋戦争の敗戦により荒廃したが、1964年あたりに再建し、日本は世界第2位の経済大国となり、その経済規模や製造・組み立て、流通など多数の点で世界を圧倒させた。したがって、1964年の東京オリンピックは、偉大な国家かつ強い経済国としての日本のグローバルシーンでの出現を祝うものであった。

しかし、2020年の東京オリンピックにはそういったものが見られなかった点は非常に残念だった。オキモトは「2020年の東京オリンピックは、日本が東日本大地震から復興して安定かつ安全で公平で栄えた社会になったことを象徴するものになることを期待していました。党派の対立や意見の不一致によって対立するのでなく、ある程度の国民的合意が形成されることも期待していました。しかし、どちらも実現することはありませんでした。」と語った。

米国における1964年と2021年の比較でも同じようことが言える、1964年あたりあるいは1960年代において米国は世界の覇権国であり、数世紀に渡って開発、民主主義、自由、多様性、変化、寛容さ、透明性、正義を通して私たちが大切にしてきた全ての理想を体現した偉大な国であった。しかし、今日の米国は機能不全に陥っており、マスクの着用や予防接種、ソーシャルディスタンスについてさえ合意できない状態である。つまり、2020年代の米国は政治をきっかけに内部崩壊する危機に晒されている。1964年の日米両国を繁栄させていた政治システムは、今では両国のみならずグローバルレベルで恐怖を与えるものになっている。「事実、世界178か国のうち100か国以上の人々が、難民や国家の不安定性などで苦しんでいるのです。」とオキモト。

また、新型コロナウイルスのパンデミックは民主主義あるいは国家の能力をみるための良いテストにもなった。しかし、ほとんどの国はこのテストに合格できなかった。

したがって、現代の私たちは世界史上非常に暗い時期にあると言える。このような状況は、第一次世界大戦後の状況と第二次世界大戦前のそれと薄気味悪いくらい似ている。このことから、オリンピックがかつての輝きを失ったのは驚くべきことではないのかもしれない。オリンピックはかつての1964年の東京オリンピックのようなものになるとは思えない。

「私たちが直面している問題は根深くかつ解決し難いもので、むしろ今後数十年でさらに悪化する可能性が考えられます。」と締めくくった。

 

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