活動概要

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2021年9月 Benkyokai: スタートアップと継続的な成長に求められる「ESG」とは

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MPowerが重視するESGを軸 にした投資活動

MPowerは、投資プロセスの中にESGの視点を組み入れることを重要視しているという。ESGを“最低限取り組まなければならない活動”や”コスト”としてしかみなさない企業もある。だがそれだけでは表面的な取り組みしかできず、投資の効果を最大限に高めることはできない。スタートアップであればなおさら事業の成長につながらない取り組みは後回しになってしまうため、業績や事業の価値を高めるための要素として位置づけることができるかが大事になる。

スタートアップの場合は大企業と比較して人的、資金的リソースが豊富ではないため、ESG専門の人的リソースを割くことの難しさはある。一方で村上氏は、「スタートアップはあらゆる体制を新たに構築する段階。あらかじめESGの視点を組み込んでおくことで事業の成長の歩みとESGの取り組みの相乗効果を発揮させられる可能性は高くなります」と指摘する。強固な企業文化がすでに確立している大企業の場合、それはかえって難しい。だからこそゼロから体制を組むスタートアップにESGの要素を浸透させ、持続的な成長を実現できれば、我々にとってもリターンとなる。投資の段階でESGの要素が全て揃っている必要はなく、大事なのはそのマインドセットである。我々と共に本気でESGに取り組み、彼らの事業に組み入れて行くというコミットメントが得られるか。その上で、企業をさまざまな形で支援することで、さまざまな価値を引き出せる可能性が生まれる。例えば、取締役会の多様性をはかる、適切な人材を選定する、トレーニングを提供する、といったようなことが挙げられる。

現在、投資先としてMPowerが焦点を当てているのは

  • ヘルスケア/ウェルネス (フェムテック、従業員のウェルネス、メンタルヘルスなど)
  • フィンテック(金融のアクセシビリティーとインクルージョンなど)
  • 次世代の働き方/教育(生産性向上ソリューション、エドテックなど)
  • 次世代の消費(サーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミーのプラットフォームなど)
  • 環境関連(クライメイトテック、グリーン素材、アグリテックなど)

の5つの分野である。

同社が主にターゲットにしているのは日本市場、そして事業にある程度の成長が見込めるようになったミドルステージからレイトステージの企業だ。投資先として選定した企業には深く入り込み、何年もの時間をかけて主にESGの統合という観点だけでなく、時にはそれを越えて共に活動し、支援をしている。松井氏は「私たちは、この業界ではある意味、異色な存在だと思います。その特性を活かし、枠にとらわれない幅広いサポートをして行きたいと考えています」と語る。

一方で関氏は日本のスタートアップが相対的に「リスク回避型」である点を指摘する。日本の経済規模は世界3位の規模を維持しており、それなりの市場規模を有する故に、グローバル市場を目指さず、スタートアップの出口が小さいまま上場してしまう傾向がある。その背景にはベンチャー投資への資金不足の傾向もみられるという。ベンチャー投資の規模でみると米国は日本の約35倍、中国は約18倍という開きがある。これらは日本におけるスタートアップやベンチャー企業のエコシステムの課題であるが、逆に言えば日本に成長の可能性が秘められているということでもありMPowerが大きく役立てるところだ。

 

パンデミックによるビジネスチャンス

大きな変化が起こるときこそ新たなビジネスのチャンスも生まれやすい。その意味で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、スタートアップやベンチャー企業が社会に大きな影響を与えるきっかけになりうる。「パンデミックによって多くの命が失われ、これまでの日常が奪われてしまいました。しかしスタートアップにとってのチャンスは至るところに見つけることができます」と村上氏は話す。社会インフラやデジタル化が一気に進んだことが一例だ。

もう一つ重要な要素として挙げられるのは、今後10年間の人口動態の変化である。特に日本は世界で最も高齢化が顕著な国であるが、これは日本だけの問題ではなく、中国や欧州、米国を含む世界的な傾向になりつつある。パンデミックによる急速なデジタル化も高齢化も、誰も経験したことがない新しい領域であり、全く新しいやり方で何かを考え出すチャンスでもある。向こう10年は特に日本のスタートアップ企業において本当にエキサイティングなものになるだろうと村上氏は期待を寄せる。

質疑応答

ーー日本のスタートアップのクォリティーをどのように評価しているか

日本の人材の質には大変感銘を受けています。最近はゴールドマン・サックスのような投資銀行、マッキンゼーのようなコンサルティング会社からスタートアップ企業にCFOやCTOといった立場で人材が流れ込んでいるのを目にしています。まだ日本があるべきレベルではないかもしれませんが、非常にポジティブで興味深い変化が起きていることは間違いありません。

もう一つ、興味深い変化が起きています。2021年上半期のベンチャーファイナンスの3分の1以上は海外投資家からのものでした。これまではほぼ国内投資家が占めていましたので、これは新しい動きです。海外からはウエリントンやTロウ・プライス、ソロスといった巨大ファンドが日本のベンチャー企業に注目し始めています。これまで日本のベンチャー企業の情報はほとんど英語で発信されず、それが一つのハードルになっていました。しかし海外からの注目を受けるだけの価値を有するようになり、実際に投資家がそれに気付き始めているのです。我々はそういうところもサポートできると思っています。

ーーMPowerは他の投資会社とは何が違うのか

私たち3人は全員が女性です。これが競争上の優位性になると思っています。投資家の方々に会いに行くと、2021年の今でも、私たちの対面に座る全員が男性で、驚いた表情をされるということが多々あります。欧米では女性だけのベンチャーキャピタルが既にいくつか存在しますが、日本では私たちが初めてで、ユニークな点です。そういった意味で、多様な側面から他社とは違う視点をもたらせると思っています。

それに加えて、私たちは3人全員がそれぞれに積み上げて来た独自のキャリアの中で、長年ESGに取り組んで来たという点が挙げられるかと思います。今やESGはとてもポピュラーになっていますが、私たちは30年間これをやってきているのです。この点においても、私たちのファンドが他とは異なり非常にユニークでかつ優位であると言えのではないかと考えています。

ーーMPowerにとっての成功の定義は

大きな社会問題の解決は大きなビジネスチャンスになります。その大きな問題をグローバルにかつ持続可能な方法で解決し、社会に変化をもたらすことができ、利益をあげることができる起業家を見つけることが、まず我々が目指すべきことだと考えます。

我々の成功を判断するためのもう一つの指標としては、どれくらいの企業や起業家を「ESG Native」と呼ばれる人々に転換させることができるかという点もあります。日本ではESGに焦点を当てた投資家は私たちが初めてですから、この点は重視したいと思います。

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