活動概要

  1. コーポレート・プログラム
  2. マンスリー Benkyokai

2021年9月 Benkyokai: スタートアップと継続的な成長に求められる「ESG」とは

Speaker
キャシー松井 Kathy Matsui
  • General Partner MPower Partners
ゴールドマン・サックス証券株式会社の元日本副会長及びチーフ日本株ストラテジスト。 1999年に提唱した「ウーマノミクス」は、日本政府がジェンダー・ダイバーシティを推進するきっかけとなった。企業のガバナンスやダイバーシティのベストプラクティスについてアドバイスも行う。 ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号、ハーバード大学で学士号を取得。
Speaker
村上 由美子 Yumiko Murakami
  • General Partner MPower Partners
OECD(経済協力開発機構)東京センター元所長。それ以前は、ゴールドマン・サックス証券会社でマネージング・ディレクターとして20年間勤務。 コーポレートガバナンス、税務ガイドライン、ジェンダー・ダイバーシティ、教育、貿易、イノベーション問題の第一人者でもある。 ハーバード・ビジネス・スクールでMBA、スタンフォード大学でMA、上智大学でBAを取得。
Speaker
関 美和 Miwa Seki
  • General Partner MPower Partners
クレイ・フィンレイ投資顧問元支店長で日本のグロース・エクイティ・ポートフォリオ・マネージャーを務めた後、モルガン・スタンレー社で投資銀行業務に従事。 また、50冊以上のビジネス/起業関連の出版物を翻訳。杏林大学の准教授でもある。 ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを、慶応義塾大学でBAを取得。
Moderator
ジェンクス 厚子 Atsuko Jenks
  • Managing Partner Japan Accelerator

日本企業の成長を促す「ESG」

MPower Partners(以下、MPower)は、多彩な職歴と経験を持つ3人の創業者によって2021年5月に立ち上がった日本初のESG重視型のグローバル・ベンチャー・キャピタル・ファンドだ。また、日本で初めての女性主導のベンチャーキャピタルであるという点においても注目されている。ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を指すが、その取り組みをいまだPR活動の一環と考えて、コストとしてみなす企業もあるが、MPowerでは、ESGをビジネス成長のドライバーと捉え、重要視している。

ベンチャーキャピタルとしてのMPowerの取り組みも特徴的だが、まず創業者それぞれの活動も多彩だ。キャシー松井氏は2020年末に26年間勤務した証券会社ゴールドマン・サックスを退社するまで、金融業界で約30年のキャリアを積んだ。同氏が提唱した「ウーマノミクス(女性の活用を推進し経済を活発化させる)」の普及や、コーポレートガバナンスの問題における活躍など、さまざまな取り組みに力を注いできた。

同氏の中心的な活動の一つになったコーポレートガバナンスでは、以前は日本企業に対して海外投資家から批判が集まることも多かったという。日本企業の場合はコーポレートガバナンスという言葉はあっても、実態が伴わず矛盾を含む“撞着語法”のように捉えられることもあったからだ。そうした中で松井氏は構造的な問題をはらむコーポレートガバナンスや日本企業の問題の一つでもあるダイバーシティに力を注ぐことに決め、日本の上場企業を相手にした仕事に多くの時間を費やしてきたが、既に体制が確立された企業に対して、思い切った行動変容を促すことは大変な時間と労力を要する取り組みだったという。

こうした取り組みを進める中で、村上由美子氏の呼びかけのもと、関美和氏と共にMPowerを設立した。現在の日本は成長の源泉となるものが必要だと考えている。「日本企業は質の高い人的資本や高水準な貯蓄率、科学的な専門性など、起業家が育つための材料が豊富にある。しかし問題はそれが適切に機能していないことです」と松井氏は指摘する。MPowerは革新的なベンチャー企業が大きな企業へと育つ前に、そうした企業の取り組みの中にESGを組み入れることを目指している。ESGは決して流行語で終わるものではなく、従業員やサプライチェーンの状態を健全に保つために極めて重要なガバナンスであり、「早いうちからESGを考慮することで、より長期にわたって持続可能な事業を手掛けることができるのです」と説明する。

きっかけは違っても目指す投資活動は同じ

MPowerの創業者の一人である関美和氏は、福岡県の炭鉱の町で生まれ育った。当時周囲では職を失う人たちも目立った中で、関氏の両親はチョコレート工場の経営は順調で、自身も米ハーバード大学のビジネススクールで学ぶことができたと話す。その後、経済的に自立してからのことを振り返り、関氏は「恩返しというだけではなく、最も効果的な方法で次世代に投資したいと思っていました。社会問題を解決できる次世代の起業家に投資することは、私にとってその一つの方法です。」と話す。それがMPowerで活動することにつながった。狙いはそれだけではなく、日本の女性が影響力のある活動をして、それと同時にお金を稼ぐことができるということを示したかったのだと同氏は言う。

同じく創業者の一人である村上由美子氏は、金融分野だけではなく公的な仕事にもかかわってきた。最初に働いたのは国際連合(国連)で、その後はゴールドマン・サックスで約16年間働いた後、再び公的な仕事に戻り、OECD(経済協力開発機構)の東京センター長を務めた。そして現在は投資家として活動している。

村上氏は国連での経験を通じて、自律的に経済を発展させるには民間セクターで、自ら判断し動けるアントレプレナーが必要だと感じた。その考えはその後のキャリアにおいても変わらなかった。例えば開発途上国で政府から多額の助成を受けた信用組合の構築に取り組んだプロジェクトでは、国際支援としての公的な仕事をする一方で、起業家としての視点や知識が必要になることもあった。経済を軌道に乗せることを支援するのは素晴らしいことだったが、できることには限りがある。このとき気づいたことは、民間企業からの資金が特定の国や分野にどのように流れるのかという点を理解する必要があるということだった。これを機に、村上氏は民間での投資を理解するためにまずはハーバード大学のビジネススクールで学び、その後ゴールドマン・サックスに入社して日本や海外におけるさまざまな投資活動にかかわった。そしてその後、再び公的機関に戻った。

「多額の資金を投じる政府の取り組みも経済の発展には貢献するものですが、必ずしも持続可能な事業になるわけではないのです。私がこのファンドを通じて目指すのは、民間企業、スタートアップ、ベンチャー企業を支援することで経済を動かすことです。彼らは経済のサステナビリティ(持続可能性)という観点において大きな変化を生み出すことができます。」と村上氏は語る。

MPowerは1つの投資会社でしかないが、より大きな支援の関係を構築すれば、より大きな取り組みにつながる可能性がある。「同じことを考えている人たちが集まることで、スタートアップやベンチャー企業の成長を支援するエコシステムを強化することができます」と村上氏は強調する。

運命ともいえる3人の共通点

実は松井氏、関氏、村上氏の3人には意外な共通点もある。3人の旧姓の頭文字が「M」であることはその一つだが、生まれた年と月まで同じなのだという。松井氏は「毎年3人で誕生日を祝っています。これも強い友情関係を築いてきたことの現れです」と話す。

“起業家の娘”であるということも3人の共通点の一つだ。関氏の両親の稼業は現在では100年以上も続く製菓会社 で「チロルチョコ」の会社である。村上氏の母親は5人の子を育て、島根県でドラッグストアを開業した。これは西日本最大級のドラッグストアチェーンに成長した。 松井氏の両親は奈良県からカリフォルニアに移住し、花卉の事業を立ち上げ、姉が現在はこの事業を引き継ぎ、蘭では米国で最大級の生産者になっているという。

起業家というと華々しいイメージがあるかもしれないが、実際はそうでなく、「私たち自身の両親の苦労を見て、事業を成長させるためには多くの苦労を克服しなければならないということを見てきた。そのような背景があるのです。」と同氏は語った。

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