活動概要

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2021年6月 Benkyokai:「変化」を成長のチャンスに変える方法

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「人間らしさ」が価値になる

オックスフォード大学が2013年におこなった調査では、今後10~20年の間に米国内の47%の仕事が消滅するとされている。「従来、自動化はブルーカラーの仕事を奪ってきたが、これからはホワイトカラーの仕事を奪うことになる」と、同氏は警鐘を鳴らす。

ではこうしたAIによる「大量失業」の時代を生き抜くには、どのような戦略が必要なのか。

世界経済フォーラムは未来の雇用やスキル、労働戦略に関して、「The Future of Jobs」と題するレポートを2016年に発表している。ナカイ氏はその中で挙げられているいくつかのスキル(複雑な問題の解決、批判的思考、クリエイティビティ、人材マネジメント、他者との連携)に注目し、「AIや機械学習が広まるにつれ、『人間らしさ』がますます重要になる」と主張する。

そしてAIに仕事を奪われないためには、①機械にとって代わられない手仕事の世界へいく、②変化の波に乗る、の二つの選択肢があると説く。

「私自身は、どちらもやろうと考えました。前者についてはブルックリンにある日本酒の醸造所に出資し、後者についてはスタートアップの世界に飛び込んだのです」

ナカイ氏はデータブリックスに転職してよかった点として、「変化の最前線にいられること」を挙げる。「毎日顧客企業と機械学習やAIを使って何ができるかを話し合っています。とくに金融業界はまだまだこれからで、できることは山ほどあります」

たとえばナカイ氏がカンファレンスなどで大手金融機関に「機械学習のモデルをいくつ採用しているか」と尋ねると、たいてい5~6種類程度だという。一方、顧客の一社で、雑誌『Vogue』などを発行するメディア大手コンデナストは1300種類ものモデルを駆使している。「メディアのように規制が緩やかな業界と、金融のように規制が厳しい業界では、これだけのデジタル格差が生じてしまっているのです」

最後にナカイ氏は日本の状況にも触れ、「AIによる変化の恩恵を日本ほど受けられる国はほかにない」との見方を示した。たとえば人口減少については「仕事が減っていく未来においても適応しやすい」とポジティブに捉える。また製造業で進むオートメーションについても「日本のロボット普及度は世界一。他国ではロボットは人間にとっての脅威だと捉えられているが、日本では『ドラえもん』のように愛される存在で、ロボットへの嫌悪感が少ない」と述べる。さらに日本企業の「ステークホルダー資本主義」についても、かつては「株主資本主義」を重視する欧米の国々から批判されてきたが、近年は見直しが起きていると指摘する。

「従来、日本の構造的弱点とみなされてきた状況は、実はこれからの時代には日本の強みになります。日本人はクリエイティビティのきっかけさえ与えられれば、世界でも必ず成功できると信じています」

質疑応答

プレゼンに続いて行われた質疑応答では、多くの参加者がナカイ氏に質問を投げかけた。そのやりとりの一部を次に紹介したい。

――金融業界は他業界よりデジタル化が遅れているという話があったが、今後はどう変わると見ているか?

これまでの金融機関では資本と規模が     重視されてきたわけですが、これからはデータとそれを扱う人が重要になります。データブリックスに転職して驚いたのは、顧客のヘッジファンドやアセットマネジャーが非常に洗練されたデータを用いて投資判断を下していることです。

一つ例をお話します。あるヘッジファンドのマネジャーと食事をしていたとき、「御社が使っている一番クレイジーなデータは何か?」と尋ねたことがあります。すると「豚の顔」という答えが返ってきました。聞けば、彼らは世界最大の豚肉消費国である中国の養豚場で、顔認証技術を用いて、豚の個体を認識・トラッキングしているというのです。そして豚のサイズや体重などのデータをもとに、豚肉の需給予測をおこなっているのです。

この技術が大いに役立ったのは、2年前に中国でアフリカ豚熱が大流行したときでした。彼らは感染している豚がある種の「特徴」を示すことをつかみました。そこで、感染の規模から豚肉輸入量の増加や価格高騰を一足早く予測し、豚肉の先物取引などに投資して儲けることができたのです。

これがデータのもつ力です。今日のアセットマネジャーはこのように従来とはまったく異なる新しいデータセットの獲得に多額の資金を投じており、その波が今、金融業界全体へと広がりつつあります。

これからの金融業界を表すキーワードは、「inclusive(包含的)」「invisible(不可視)」「instant(即効性)」の3つだと考えています。そして、その3つを可能にするのがデータです。

米国では銀行口座をもっていない人など、金融サービスの恩恵を十分に受けていない成人が5000万人以上もいます。彼らは信用情報がないため、クレジットカードを作ることすらできません。しかし家賃や携帯電話などの支払いデータを利用すれば、従来の金融システムの蚊帳の外に置かれていたこうした人々もシステムの一員に加わることができます。これが「inclusive(包含的)」の意味です。またUberを使ってタクシーを利用するとき、運転手との間で直接的な金銭の受け渡しが発生せず、利用完了時に自動的に決済されますよね。これが「invisible(不可視)」と「instant(即効性)」です。このようにデータを活用することで、より利便性が高く、安全で包含的な金融サービスを提供できるようになるのです。

――優れた機械学習には大量の良質なデータのインプットが欠かせないが、プライバシーの観点からデータを提供するのに消極的な人も少なくない。こうした人々のマインドセットを変えるにはどうすべきか?

人々がデータを進んで提供したくないのであれば、別のデータソースを活用することが考えられます。我々の顧客で、サンフランシスコにあるスタートアップのSafeGraphは、約8000万台の携帯電話の位置情報データ(時間や場所など匿名化された情報)を使って、人々の移動を予測しています。これらを金融機関の既存の取引データなどと組み合わせれば、新しいサービスを提供できるようになるでしょう。

もう一つは法律に則り、データを有効利用する方法です。近年、イギリスやカナダ、オーストラリアなどではオープンバンキング(顧客の同意を得た上で、オープンAPIを用いて、銀行が保有する顧客データを提携企業と共有し、新たなサービスを生み出す取り組み)が法制化され、データの利活用が進んでいます(日本でも2017年5月に改正銀行法が成立)。顧客が自分自身のデータを持ち運びでき、簡単に口座をスイッチできるので、データの「民主化」を促進することにつながります。もう自分のデータがどう利用されるかを心配する必要はありません。このようにオープンバンキングの普及は、データの共有を推し進め、今後さらにイノベーションを加速させていくでしょう。

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