活動概要

  1. コーポレート・プログラム
  2. マンスリー Benkyokai

2021年6月 Benkyokai:「変化」を成長のチャンスに変える方法

Speaker
ジュンタ・ナカイ Junta Nakai
  • Databricks 金融サービス及びサステイナビリティ部門グローバル・インダストリー・リーダー
2004年にゴールドマン・サックスに入社し、約13年間にわたって活躍。アジア太平洋地域セールス部門のトップなどを務めた。その後、フィンテック系スタートアップのSelerityを経て、2019年2月にDatabricksに入社。金融業界におけるAIのユースケースに精通し、「Business Insider」をはじめとする大手メディアへ寄稿や講演活動などにも積極的に取り組む。また2017年よりニューヨーク市初の日本酒醸造所兼バー「Brooklyn Kura」のアドバイザー兼投資家を務める。ノースウェスタン大学卒業(経済学・国際学専攻)。母校ホプキンズスクールの名誉卒業生。
Moderator
芳川 裕誠 Hironobu Yoshikawa
  • Treasure Data 共同創業者兼会長

激変する時価総額ランキング

2013年創業のDatabricks(データブリックス)は今、世界で最も注目されている法人向けソフトフェア企業の一つ。クラウドサービスと連携した統合データ分析プラットフォームを提供し、全世界で約5000社の顧客を抱える。企業価値はスタートアップで世界8位(米国5位)の280億ドル(約3兆円)に上る。

「日本でいえばコマツやJR東日本の時価総額と同規模ですね」。そう誇らしげに語るのが、今回のスピーカー、ジュンタ・ナカイ氏だ。長年金融大手のゴールドマン・サックスでトレーダーとして活躍し、現在はデータブリックスで金融サービス及びサステイナビリティ部門のグローバル・インダストリー・リーダーを務める。

ナカイ氏はスライドを用いて、過去20年ほどの間に世界の時価総額ランキングがどれほど大きく変化したかを取り上げた。

2021年3月末時点における世界の時価総額トップは、アップル、サウジアラムコ、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグル)、フェイスブック、テンセント、テスラ、アリババなど、テクノロジー業界を中心に有名企業の名がずらりと並ぶ。これに対して1989年時点では、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、エクソン、GE、東京電力、IBMなど、トップ20社のうち実に13社を日本企業が占めていた。

ナカイ氏は「今はトップ20社に日本企業は1社もありません。勝ち組企業の集約が起きています。全米トップ4の時価総額は、いまや日本の全上場企業の時価総額よりも大きいのです」と話す。

「私たちの周りには変化があふれ、その変化のスピードは加速する一方です。過去10年間の米国の時価総額トップ20社を見ても、半数近い11社が入れ替わっています。今後数十年間にわたって企業が継続的に成長を続けるためには、自らを変化に適応させ、リセットし、生まれ変わらなければならないのです」

では具体的にどのような「変化」が起きているのだろうか。ナカイ氏は、モルガン・スタンレーの最近の株式調査レポートをもとに、「クラウド、協業、自動化、データ分析に積極的に投資する非テクノロジー企業は、概して利益率、株価収益率、収益性が高い」と指摘。そして過去10年間の業界別ETFの価格推移グラフを示し、金融業界はほぼ横ばいであるのに対し、ソフトウェア業界は右肩上がりで成長していると分析する。

「絶えずイノベーションが起きて自らを変革してきた業界と、過去30年間ほとんど変わってこなかった業界との間で、このように大きな差が生まれています。変化の波に乗り、自ら『変化の一部』となれる企業は大きな恩恵を受けられるのです」

ゴールドマン・サックスで見た「変化」

ナカイ氏が大手投資銀行からスタートアップへの転職を決めた背景には、こうした変化に対する危機感があったという。

日本生まれの同氏は4歳のときに父の転勤で渡米し、その後、地元コネチカット州の名門私立中高一貫校へ入学。そこでクラスメートの誕生日会に招かれるようになったナカイ氏は、友達たちが自分よりもはるかに大きな家に住んでいることに衝撃を受ける。「両親はいったいどんな仕事をしているの?」ナカイ氏が尋ねると、多くのクラスメートが同じ答えだった。「ウォール街で働いているんだ」

ナカイ氏は笑う。「それを聞いて、自分もいつかウォール街で働くぞ、と思いましたね。それで友達の中で誰が一番大きな家に住んでいるかを調べて、ランキング表を作ったんです。一番大きな家の友達は、バスルームが20室くらいあるような豪邸に住んでいました。その友達の家に行って、彼の父親に『ウォール街のどこで働いていますか?』と尋ねたら、『私はウォール街では仕事してない。でももし君がウォール街で働きたいならゴールドマン・サックスが一番の会社だ』と言われたんです。その日から、自分の中で『ゴールドマン・サックスで働く』という目標ができました。13歳のときでしたね」

その夢が叶ったのは大学卒業後の2004年。44人の面接試験を通過して、ゴールドマン・サックスに入社した。アソシエイト、バイスプレジデント、マネジングディレクターを経て、いつかパートナーへと順調に昇進する夢を膨らませた。

ところが入社後のナカイ氏を待っていたのは、そんな「一直線のキャリアパス」ではなかった。「目の当たりにしたのは目まぐるしい『変化』でした」とナカイ氏は言う。

「2004年に入社したとき、取引フロアには株のトレーダーが600人くらいいたのですが、2017年末に私が退社したときはたった2人しか残っていませんでした。株の売買は人間からアルゴリズム(機械)の仕事へと変わったのです」

またかつてトレーダーといえば、名門大卒で体育会系出身者が多かったが、今ではプログラマーばかりになった。電話口で怒鳴るように売買注文を出す人はもういない。

変化は金融業界だけではなかった。まわりを見渡せば、飛行機やホテルの予約システムなど、従来は人がおこなっていた「仲介業」が次々に機械へと取って代わっていった。

このような急激な変化にどのように対応すればいいか。ナカイ氏は周囲に助言を求めたが、返ってきたのは、「とにかく目の前の仕事を一生懸命こなせ」という言葉だった。「それは昔彼らがやって成功した方法であって、僕にはそれが今も通用するとは思えなかった」とナカイ氏。

「この業界で生き残るには、自分自身をピボット(方向転換)させないといけない。破壊されるくらいなら、自らが破壊する人になりたい」

そう考えたナカイ氏は、スキルアップを図るため、データサイエンスのオンライン講座などを受講。そして2017年に13年間在籍したゴールドマン・サックスを辞め、創業間もないフィンテックスタートアップに転職した。「新しい分野での経験値を積む」ため、85%もの給料減も受け入れた。「今成功している企業が10年後、20年後にも繁栄している可能性は低い。常に自分自身が学び、変化しなければならないのです」と同氏は言う。

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