活動概要

  1. コーポレート・プログラム
  2. マンスリー Benkyokai

2021年3月Benkyokai:ラーメンがアメリカの「国民食」となる日

12

起業するまでの準備

三度目の挑戦としてラーメンビジネスでの起業に狙いを定めた長谷川氏は、帰国して香川県のラーメン専門学校で短期集中講座を受講。そこで一から麺やスープの作り方、トッピングや盛り付けなどのノウハウを学んだ。

その後、米国に戻って、「米国人がどのような味の好みをもっているのかを知るため」にイベントでの試食会やオフィスへのケータリングを行い、客からのフィードバックを集めた。

客の反応は良好だったが、長谷川氏には初めから「ラーメン店を開業する」という考えはなかったという。

「もっとスケールの大きなことをやりたかった。米国ではすでにBlue ApronやHelloFreshなど料理キット宅配企業が成功していました。ECチャンネルを使えば、特定の地域に縛られず、全米の消費者にサービスを提供できると考えました」

ラーメンのオンライン販売は本当に脈があるのか。それを確かめるべく、長谷川氏はクラウドファンディング大手のキックスターターでキャンペーンを開始。目標額数千ドルと規模は小さかったものの、48時間以内に目標金額を達成した。

「ラーメンキットという新しい市場に対して需要があることがわかったので、『よし、本気でやろう』と決意しました」

こうしてラーメンECスタートアップ「ラーメン・ヒーロー」が誕生した。

日本式のラーメンにこだわらない

ラーメン作りを専門学校で学んだとはいえ、プロとしての修行経験がなかった長谷川氏は、シェフ探しを開始。そんな中で、日本の有名ラーメン店で修行した経験をもつヒデキさん(現・料理長)が加入。「彼は料理の腕前はもちろん、クリエイティビティがあって新しい味を創作するのが得意」と、全幅の信頼を寄せる。

味や品質をグレードアップしたことで、YouTuberなどのインフルエンサーを通じてすぐに評判が広まっていった。そして2019年、商品の配送先をカリフォルニア州内から全米に拡大した。

現在は醤油や味噌、豚骨など味の異なる8種類の料理キットを販売している。「日本式のラーメンだけを提供することにはこだわっていません。たとえば煮干しラーメンは日本人好みですが、米国人にはあまり受けが良くありません」と長谷川氏は言う。またビーガン(完全菜食主義者)向けの商品を2種類扱っており、その人気の高さには驚かされているという。

「ラーメンの味や作り方にはまだまだイノベーションの余地がある」と語る長谷川氏。日本国内にない新しいメニューの開発にも積極的に取り組んでいく考えを示した。

「僕らの目指すところは、本物の高品質なラーメンを気軽に味わえるようにすることです。それと同時に、この楽しくてクリエイティブで自由なラーメン文化を米国の人々に伝えていきたいです」

質疑応答

プレゼンに続いて行われた質疑応答では、多くの参加者からスピーカー二人に質問が寄せられた。そのやりとりの一部を次に紹介したい。

――最近はノンフライ麺やビーガン餃子などさまざまな新しいメニューが登場しているが、ラーメン業界ではほかにどのようなイノベーションが起きているのか? またつけ麺を提供する予定は?

夘木氏:

コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ラーメン店は店内飲食以外の方法で売上を増やす方法を模索しています。すでに、ゴーストキッチンや、消費者向けパッケージ商品(CPG)、宅配料理キットなどが登場しています。私が個人的に面白いと思うのは、サンフランシスコの「Yo-kai Express」というスタートアップです。彼らは新鮮でアツアツの生ラーメンを45秒で提供できる自動販売機を開発し、空港やオフィス、スキー場などに導入しています。こうした新しいテクノロジーの登場によって、ラーメンのイメージが従来のインスタントからプレミアムな食へと変わっていくのではないでしょうか。つけ麺についてはこれから市場が大きくなっていくとみており、楽しみにしています。

長谷川氏:

Yo-kai Expressはとても面白いビジネスモデルですね。イノベーションについては語り出したら止まらないので、僕からはつけ麺に関して一言。つけ麺はこれから確実に人気が出てくるでしょうし、僕たちも近い将来、つけ麺をメニューに加えることを検討しています。ベイエリアにはラーメンの名店、TAISHOKEN(大勝軒)の米国1号店があるのですが、その店主から聞いた話で興味深かったのは、米国人の中にはつけ麺を食べたことがなく、麺を全部スープに入れてから食べる人が多いそうです。またつけ麺のスープをそのままストレートで飲む客もいますが、それだと塩分が強すぎて体によくありません。米国でつけ麺の文化を広めていくためには、そうした面での啓蒙活動もおこなっていく必要があります。

――米国でラーメンは一過性のブームで終わるのか? それとも、ピザやタコスのように一つの食文化として残ると思うか?

夘木氏:

パンデミックの影響で、ラーメンを家庭で楽しむ人が増えています。われわれは家庭用ブランドとして、高品質の新鮮なラーメンを米国の消費者に届けたいと考えています。そしてラーメンをパスタやパンなどと同じくらい日常的な食の一つにすることが、われわれの目指すところです。昨年、米国では約50億パックのインスタントラーメンが消費されました。その一部がインスタントラーメンからクラフトラーメンに切り替われば、かなりの需要が生まれるはずです。

長谷川氏:

ラーメンは米国だけでなく世界的な食文化として定着すると考えています。なぜなら、ラーメンはスープ麺の一種であり、元々は中国から来たものです。日本では恒久的な食文化の一つになっていて、米国でも人気が出てきています。成分を見ると、動物性脂質、塩分、糖分など、人が本能的に求めるものが全部入っています。またうま味成分もたっぷり入っていてクセになります。このようにラーメンは世界中の人に受け入れられる条件が揃っているのです。

12