開催場所
六本木ヒルズクラブ(東京都港区六本木)
プログラム
15:00 | SVJPよりご挨拶 |
15:05 | 基調講演 久能祐子氏(Halcyon 共同創設者 兼 代表理事) |
15:50 | パネルディスカッション 久能祐子氏 佐々木ジャネル氏(EY Japan ディレクター) モデレーター:鈴木和洋氏(シスコシステムズ 代表執行役員会長) |
16:35 | 質疑応答(Q&A) |
16:45 | 交流会 |
「マイノリティが破壊的イノベーションを生む」
久能祐子氏(Halcyon 共同創設者 兼 代表理事)
「20世紀のリーダーシップと、21世紀のリーダーシップは違うのではないか」
そんな投げかけから、第1部となる久能祐子氏の基調講演は始まった。
バイオテック企業を日米で計3社創業し、うち2社をIPO(上場)。米フォーブス誌が選ぶ「America’s Richest Self-Made Women 2015」に唯一選ばれた日本人女性――。そう聞くと、日本人離れしたアグレッシブなキャリアウーマンが思い浮かぶ。だが久能氏は穏やかな口調で、自身の学生時代について「ただ純粋に科学者になりたい、すごくシャイな少女だった」と振り返った。その後、アカデミアからビジネスの世界へ活躍の場を広げ、画期的な新薬を生み出していった変遷について、出会いや失敗、苦労のエピソードを交えながら語った。
いまや全米有数の女性実業家となった久能氏が現在力を入れているのが、社会起業家としての活動だ。2013年に、「より良い世界を目指す新鋭クリエイターのための触媒となる」ことを目的に、米国の首都ワイントンDCで「Halcyon Incubator(ハルシオン・インキュベーター)」を立ち上げた(2017年にNPO「Halcyon」として法人化)。ジョージタウン地区で購入した2軒の歴史的建造物を拠点に、アートや社会起業分野におけるイノベーターを育成すべく、滞在型のプログラムを提供している。
そのうちの一軒、社会起業家向けのプログラムを展開する建物は、久能氏が「イノベーションが生まれるエコシステム」に欠かせないと考える次の3つの要素を取り入れる形で設計されている。
- 一人でいられる、安全で保護されている場所
- 適度なストレスがある、非日常空間
- ある程度の密度がありながら、オープンで多様性がある
一見すると矛盾する要素を含むように思えるが、知らない人に会うなどの「適度なストレス」と、密度がありながら風通しの良い「オープンで多様性」のある環境こそが、柔軟な思考やひらめきを生み、イノベーションの創出につながりやすい、というのが久能氏の考えだ。
ハルシオン・インキュベーターの設立から約6年、久能氏の「社会実験」は一定の成果を生みつつある。プログラムを卒業したスタートアップ全体での調達資金は約120億円にのぼり、生み出した雇用は1000人以上、そして開発したプロダクトやサービスは100万人以上の生活に影響を及ぼしているという。また参加スタートアップ(第1~7期)の内訳を見ると、共同創業者に女性を含む企業は51%、非白人を含む企業は59%を占めるなど、「白人男性中心」とされてきたスタートアップの世界に風穴を開ける役割も果たしていることがわかる。
さらに久能氏は2016年、女性起業家のためのインパクト投資ファンド「WE Capital」をワシントンDCで立ち上げた。「アメリカのVCでは最終決定権をもつ人間の93%が男性であり、女性CEOのスタートアップの資金調達額は、VCによる投資額全体のわずか2.2%にすぎません」と同氏は指摘する。ハルシオン・インキュベーターと並行して、資金面からも女性起業家の活躍を後押しする試みだ。
このように貪欲に挑戦を続ける久能氏の原動力とは何だろうか。同氏は「self-efficacy(自己効力感)」というキーワードを口にし、こう説明した。
「self-efficacyとは未来の自分に対する自信、つまり『まだやったこともないのにできそうな感覚』のことです。うまくいくかどうかはわかりません。でもこの感覚があれば、どんな高い山であっても『とりあえず登ってみよう』と思えます。私自身、意識していたわけではありませんが、このself-efficacyがあったおかげで、これまでずっと頑張ってこられたのかなと思います」
「日本型スーパーエコシステム」を作る
自身のキャリアを振り返り、参加者を勇気付けるメッセージが発信された後、話題は日本におけるイノベーションへ。久能氏は「日本型のスーパーエコシステム」を作るべく現在取り組んでいるという活動を紹介した。
それが2018年3月に久能氏がファウンダーの一人として創業した株式会社フェニクシーだ。同社は昨年、京都市左京区に居住型インキュベーション施設「toberu(とべる)」を開設。異業種の企業で働く参加者が生活をともにしながら、社会課題の解決につながる新規事業開発を目指すプログラムを始動させた。
ハルシオン・インキュベーターに似ているようだが、違いもある。「日本型スーパーエコシステム」の考え方のベースは、日本のトップ人材の多くは大企業で働いており、組織に在籍したまま起業できれば、日本におけるイノベーションは爆発的に増加する可能性を秘めている、というものだ。
こうした取り組みについて紹介した後、久能氏はソーシャルビジネスに力を入れる理由についても触れ、「Making Money by Doing Good(世の中に役立つことをして儲ける)」という言葉を紹介した。
「ビジネスで儲けてから社会貢献をするのではなく、最初から『利益』と『社会的インパクト』を同時に追求するという考え方です。5年ほど前から、欧米の若い起業家たちの間ではこれが主流の考え方になってきており、実際に世界の投資家たちは今、起業家たちに社会貢献を求めています。21世紀で成功するビジネスモデルとは、まさにこの『利益』と『社会的インパクト』を両立させたものなのです」
「21世紀型リーダーシップ」とイノベーション
講演の後半で、久能氏は「イノベーションにはダイバーシティが欠かせない」として、その理由を3つ取り上げた。
- 既存のモデルが働かなくなってきた
- 破壊的イノベーション(「0→1」を作る人材)が必要になってきた
- マイノリティの考え方が必要になってきた
このように新たなイノベーションのモデルが必要とされる中、久能氏は日本社会における「マイノリティ」としての女性の役割に着目する。
「マジョリティ(男性)の作った社会システムが行き詰まった今だからこそ、これまで表舞台に立てなかった人たちや、マジョリティ集団とは考え方や価値観が違う人たち、あるいは同じ集団でも感性が異なる人たちが求められています。日本社会でそういう一番のマイノリティは誰かといえば、女性たちにほかなりません。皆さんの中に、ダイバーシティの一番大切なポイントである『破壊的イノベーション』を生む力が隠れています。ぜひその力を役立ててください」と久能氏は呼びかけた。
結びでは、冒頭に投げかけた「21世紀型リーダーシップ」に触れ、何が起こるかわからない、誰も正解を知らない世界だからこそ、「勇敢で大胆に、謙虚でオープンに、敏捷で柔軟に、そしておおらかでリスクに対して寛容であることが大事」とし、この点に関しても「日本女性の最も強いところではないか」であるとコメント。「ぜひみなさんで立ち上がって、世界を救っていただきたいと思います」という女性たちへの期待を込めたメッセージに対して、参加者からは大きな拍手が送られた。