活動概要

  1. アントレプレナー・プログラム
  2. シリコンバレーへの挑戦

【SVJP Demo Day】Entrepreneurship session with Bill Tai

Speaker
ビル・タイ Bill Tai
  • Venture Capitalist, Athlete, Adjunct Professor
1991年からベンチャーキャピタリストとしてスタートアップに資金提供を行っており、そのうちシードおよび初期段階のプロジェクトのうち23社が公開企業に成長した。Zoom Video Communicationsの最初の支援者であり、Bitfury、Canva、Color Genomics、Class.com、Dapper Labs、SafetyCultureの初期投資家でもある。
HUT8 Miningの取締役会会長、データサイエンスの先駆者であるTreasure Data(SOFTBANKにより買収)の共同創設者兼会長、ネットワークオペレーティングシステムのパイオニアであるIPInfusion(東京証券取引所:4813)の共同創設者兼会長、およびiAsiaWorksの創業CEO兼会長(IPOはゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー)としての運営経験を持っている。iAsiaWorksは1990年代にアジア10カ国でインターネットデータセンターを運営していた。
Moderator
芳川 裕誠 Hiro Yoshikawa
  • GP - Carbide Ventures , Founder & Chairman - Treasure Data, Executive Committee member - SVJP
日本生まれの起業家で、現在シリコンバレー在住。2001年より米Red Hatで勤務。2007年より三井 物産のベンチャーキャピタルファンド管理のGP企業(Mitsui Ventures)にて、ソフトウェアを中心とし た技術投資を担当、2009年にシリコンバレー事業所に転勤。2011年、マウンテンビューにて米トレ ジャーデータ社を共同創業し、創業以来CEOを務める。同地の著名VCなどから複数回に渡り合計 5400万ドル(約57億円)を調達し、売上数百億円、従業員数400名超まで成⾧。2018年7月、英Arm 社が米トレジャーデータ社を総額約6億ドル(約660億円)で買収。Arm社のデータ事業担当役員とし て数年間勤務の後、トレジャーデータはSoftBank Vision Fundの元で再独立し、取締役会長に着任。

米国やグローバル市場へのゲートウェイであるシリコンバレーを、日本から目指す意義は大きい。9月5日、米国を目指す起業家向けに1ヶ月にわたって実施されたRoad To Silicon Valleyの総括のイベントとしてDemodayを開催した。SVJPのエグゼクティブコミッティーメンバーでもありTreasure Dataのファウンダーとして、米国での創業、事業成長そして英Arm社へのエグジットと大きな成功を収めた日本人でも有数の起業家である芳川裕誠氏と、彼の盟友としてその成功を支えた、シリコンバレーの伝説的な投資家であり、現役のエンジェル投資家であるBill Tai(ビル・タイ)氏の二人をゲストとして現地シリコンバレーから招いてキーノートセッションを行った。会場には日本から米国を目指す起業家、それを支える大企業やベンチャーキャピタル、大学関係者など多くのオーディエンスが集まった。

 

Silicon Valleyとは?そこで得た学び

1980年代、まだシリコンバレーが農業地域の色を残す時代に移り住んだタイ氏。当時、参画したスタートアップ、LSI Logicのオフィスも花農園の跡地を利用したものだった。スタンフォード大学や軍事を支える企業の存在、そして何より人々の姿勢とパワーがこの地域を特別なイノベーションの聖地に変えていったと話す。特に、フェアチャイルド・セミコンダクターの出現が大きな契機となり、そこから生まれる起業家やベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルやクライナーパーキンスの活動が始まった時代でもあった。特に、セコイア・キャピタルのファウンダーであるDon Valentine(ドン・バレンタイン)氏はタイ氏が一緒に仕事をした経験もあり、生涯のメンターとして今でも心に残っているアドバイスがいくつもあると話す。

あるとき、同じ便でサンフランシスコへ戻るフライトがキャンセルとなり、二人で空港でディナーをする機会があった。当時20代だったタイ氏はバレンタイン氏に「投資家としてどんなことに長ける必要があるか」と訪ねたところ、彼は「成功するには、たった3つの要素を見誤らないことが重要だ」と答えたと話す。その3つとは、マーケット(market)、経営陣(management)、資金(Don’t overpay)だという。とりわけ、マーケットに関しては重要で、マーケットは十分に大きい必要があり、またもっとも適切な時期に入らなければいけないと彼は続けた。仮に世界最高のチームと無限の資金を持っていても、その相場を見誤れば、損失が増えていくだけである。「とにかく適切なタイミングで適切なマーケットに集中するだけだ」とバレンタイン氏は強調した。

経験を積むごとに、そのアドバイスの本質が少しずつ理解できるようになったとタイ氏は語る。そして、自身が情熱を注ぐサーフィンの例に重ねてこう付け加えた。「サーフィンに挑戦している自分を想像してみてください。どれだけパドルしても波に乗れないこともある。一方で、大きくて良い波が来たとき、たまたま適切な場所にいれば、ほんの一漕ぎで波に乗れることもある。つまり、自分のエネルギーと資本を効率的に使い、適切なタイミングを見極めることが何よりも重要なのです」

タイミングが合えば、市場が自然と引っ張ってくれるとも語り、さらに「難しいことですが、時間をかけて、その波を見極める価値があるのです」と続けました。タイ氏が体験した『波』が、シリコン関連での成功であり、個人のエンジェル投資家として多くの投資で成果を上げられたのも、この波を見極める哲学に根差していると語った。

未来そして、投資をどう見極めてきたのか

では、マーケットとタイミングの見極め方とは具体的にはどのようなことなのか。タイ氏はここ10年だけでも、10社以上のユニコーン企業に関わってきていて、ZoomやCanva, Treasure Dataなど創業初期の段階で投資機会を見極め、大きな成功を収めてきた。芳川氏は創業時期がトレジャーデータとほとんど同じだったというZoomの例を引き合いにして、「既にSkypeやCISCO WebExなどのツールが日常的に使われている中、必ずしも新規参入に最適なタイミングの市場とは思えなかったのでは?」と疑問を投げかけた。これに対し、タイ氏はマクロテクノロジートレンドの変化が非常に重要だったと述べる。「2008年から13年の頃、クラウドアーキテクチャの進展により、ビジネスのスケールやコスト構造が大きく変わり始めていた」ことに注目していたと言い、その変化がもたらすビジネス機会が何かをずっと探求していた。そしてちょうどその時期に、Zoom創業者のEric Yuan(エリック・ユアン)氏と出会い、ビデオカンファレンスの領域は新しいテクノロジー環境によってスケーラビリティと品質が劇的に向上し、人々や企業にインパクトをもたらす波になると確信したと語る。

起業家自身を見極めるときも市場から

タイ氏は、「(シードからアーリー期の)わずか2〜3人のチームでありながら、世界を変えるような大きなアイデアを持つ起業家と働くことが本当に楽しい」と語る。数々の成功を初期段階から支えた実績があるため、起業家からのアプローチを受けることも多く、その際にはまずその起業家が目指すマーケットを確認する。まずは、市場の構造が変わりつつあるか、次にタイ氏自身が今後の3〜4年を関わるテーマとして情熱があるマーケットかどうかが重要だとし、この条件を満たすならば次に起業家の経歴を見て、そのテーマに適した人材であるかを判断すると話した。必ずまずはマーケットから判断する、一貫した哲学を感じる回答である。

さらに、タイ氏は起業家には「カリスマ性と純朴さ」が必要であると強調した。これに芳川氏も同意し、「起業家の最も重要な役割の一つは、優れたチームを築くことだ」と述べる。強烈なリーダーシップや、人を惹きつける魅力、支持を得やすい人柄があるかどうかを、投資家として注視すると語った。

日本の知られざる可能性とオープンでいること

祖父が早稲田大学出身で、自身もセミコンダクター関連のビジネスで何度も来日し、日本のチームと共に働いてきたタイ氏には、日本との深いつながりがある。そんなタイ氏から見た今の日本はどのように映っているのか、芳川氏が尋ねた。

タイ氏は、日本が製造業大国として認識される一方で、そのディテールや正確さを追求する姿勢がソフトウェア開発にも非常に適していると感じている。また、日本の起業家やエンジニアの質や教育のレベルは、他の国と比べても非常に優れていると評価。しかし、文化的な影響から、教育やルールに従うことが求められ、ある特定の枠から外れることを避ける傾向があるとも指摘した。「常識や親の期待から少し逸脱してみることも必要だと思います」とタイ氏は語る。

今、さまざまなものがデジタルに移行し、経済全体が大きく変化している。そのため、柔軟な姿勢でオープンに臨むことが大切だと彼は考えている。「挑戦する意欲を持っていますか?」と問いかけ、「たとえ失敗しても、それが新しい学びにつながります。私は家族の中では厄介者のような存在で、決まり事を守らなかったり、小さな失敗を繰り返したりしていましたが、そのおかげで兄弟よりも速いペースで多くを学ぶことができました」と続けた。医者である姉、ハーバードを卒業し、ベンチャーキャピタリストとなった弟に比べ、型にはまらない道を選んできたタイ氏だが、「実践してみることで学べることが増え、チャンスも広がります。世界は広く、やり方は無限にあります。だからこそ、その挑戦に対して心をオープンにしておくことが大切なのです」とメッセージを送った。

とにかく楽しむ、楽しむための決断をする

最後に、キャリアの選択やなぜ組織を離れてエンジェル投資家になったのかと尋ねられたタイ氏は、少し照れくさそうにこう答える。「陳腐に聞こえるかもしれませんが、とにかく楽しむことが大切です。僕にとっては、クールで新しいことに挑戦している、賢くて面白い人たちに毎日のように会えることが本当に楽しかったんです。」

タイ氏は続けて、個人で独立して動くことを決めたことを思い出し、「日々の業務に追われながらも、自分自身で何かを始めてみようと思ったのです。思い切って決断をした結果、Canvaのようなプロジェクトや、トレジャーデータ、Zoomなどと関わることができました。結果としてうまくいきましたし、それがまた楽しいんです」と話した。そして最後に「今も本当に楽しんでいる。それが私にとっては本当に大切なのです」と締めくくった。